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なかなか応募が集まらず苦労しているイベントがありました。
チラシデザインを変えてみると、前回の3倍が集まり、定員オーバーとなりました。
鍵となったのは「論理的デザイン」です。
論理的思考をデザインに導入して結果につながった実例をご紹介します。

“バスツアーのチラシを作って欲しい”

九州でインフラ系の事業を営む会社。
3年ほど前にここ九州に移住してきてすぐにお手伝いすることになった会社です。
この会社では、定期的にお客様への感謝の意味をこめて、バスツアーを企画しています。
参加費も格安です。
理由は「お客様感謝の気持ち」を込めて会社が費用の一部を負担しているからです。
観光バスをチャーターして、2、3箇所の観光名所を巡る日帰りツアーでちょっと贅沢なランチ付き。会社のスタッフも数名同行して案内するので迷うこともなく安心、運営のベースは旅行代理店が担当しているのでスケジュールも万全の、至れり尽くせりのツアーです。
今回、またこのバスツアーをすることになり、そのチラシを作って欲しい、という依頼がありました。
利益還元イベントなのに
応募がこない。
このバスツアー、悩みがあるとのことです。
それは、応募が少ないこと。観光バスを1台チャーターするため、 35〜45人に参加してもらう必要があります。
毎回お客様にチラシで告知しているのですが、これだけでは45人の枠が埋まらないため、営業担当が接客の際などに積極的におすすめしてなんとか人数を揃えているとのことです。
いい企画なのに「なぜ?」と思いました。
45人集めるために配布しているチラシは万単位とのことです。配布枚数が足りないわけではなさそうです。

前回のチラシをチェック

そこで応募が少なかったという前回のチラシをチェックしてみることにしました。

社内で制作されたチラシのオモテ面。
社内で制作されたチラシのウラ面。

社内制作ということですが、しっかりと作られています。
集客できなかった原因がどこにあるのか、探っていきます。

購入までの4ステップ

チラシなどを見てから実際に行動を起こすまで、4段階のステップがあります。

  1. チラシが視野に入る
  2. 「自分ごと」と思って興味を持つ
  3. しっかり内容を検討する
  4. 行動する(購入する、申し込むなど)

反応が良くない場合、どこかがうまくいっていないはずです。

前回チラシの課題点

このチラシは、ツアー自体にも魅力があり、破格の値段設定もになっているので、よく読んでもらえれば行動を起こしてもらえる可能性が高いと考えました。「しっかり内容を検討する」の行程まで進んでもらえず、前段階ではねられてしまっている、と考えられます。
本来ならこの企画に興味を持ったはずの人たちが、このチラシをちらっと見た時に「自分ごとではない」と思って流してしまったと考えられます。もしこの人たちが「おっ!」と気づいて内容を読んでくれたら、この企画の良さに気づいてくれていたはずです。

  • チラシが視野に入る
  • 「自分ごと」と思って興味を持つ

この2点について改善すると効果が上がりそうです。

参考のためにもう少し分析して見ます。
ではこのチラシはどういう「雰囲気」を醸し出しているでしょう?お客さんの立場に立ってチェックしました。
「自分ごと」かどうかを判断するのに、たった0.5秒ほどの時間しかかけないと考えられています。
そこでこのチラシをほんの一瞬だけ眺めて見て、どんな印象が記憶に残るか、初めてこのチラシを見るお客さんになったつもりでシミュレーションしました。

印象として残ったのはこんなイメージでした。

  • 懐かしい昭和
  • 手作り感
  • バスツアー

オレンジ色のレトロな昭和のイメージと、社内制作チラシの手作り感、「バスツアー」の文字です。これらのキーワードをつなげてお客さんの頭に中に浮かんだ文章を想像すると次のようになります。

会社のスタッフが連れていってくれる手作りバスツアー

お客さんはこのアピールに対して興味を持たなかった、ということになります。
そこで今回のチラシでは「旅行会社運営のしっかりしたツアー」、「一部会社負担の低価格」という部分をアピールしていくことにしました。

今回の企画内容

今回の企画内容は次の通りです。

企画名チャーターバスの日帰りツアー
目的地長崎(島巡り)
価格大人1名 6,500円
ターゲット層30代女性(主婦)

アピールポイントは、先ほどの分析結果から次の2つになりました。

  • 旅行代理店が運営を担当する安心感
  • 会社が費用の一部を負担して実現した低価格

ターゲット層の「自分ごと」を考える

「アピールポイント」はあくまで企画者側(=送り手)の視点です。
そのままアピールポイントをぶつけても、ターゲット層(=受け手)にとっての「自分ごと」ではないので視界に入ったとしても流されてしまいます。
受け手にとっての「自分ごと」として見せられれば「おっ!」と気づいてもらうことができます。

「送り手がアピールしたいこと」と「受け手にとっての自分ごと」が重なる部分の「何か」を鋭く表現すると反応が期待できます。
今回のターゲット層は「30代の主婦」です。「30代主婦にとっての自分ごと」といってもまだまだ範囲が広く、漠然としています。
こんな時に使えるのが「ペルソナ」という方法です。

ペルソナを作る

映画のキャラクターを作るようにして、具体的に人格をイメージして膨らませます。今回のバスツアーに参加して「楽しかった!」と思った30代の主婦の日常をストーリーで考えてみました。

35歳のA子は結婚7年目の主婦。夫は3歳年上で仕事が忙しい。 日曜日は休みにできるが、土曜は持ち帰った仕事を家でしている。 6歳の息子は来年から小学生になるので、習い事にも行かせるつもりにしている。 その前に思い出づくりで旅行に行きたいけれど、忙しくしている夫に負担になるので、なかなか言い出しづらい…。 そんな時にチラシをみた。 海と自然を満喫できる日帰りバスツアーなので、ちょっとした非日常が味わえる。 計画を立てる必要もないし、夫に車を運転してもらう必要もない。 家族3人で16,300円。 ランチも含まれていて、これ以外の出費は集合場所までの電車賃ぐらい。 いいかもしれない…ちょっと夫に聞いてみよう…。

ストーリーを考えたことで「今回のアピールポイント」と「ターゲット層の自分ごと」の重なる部分として「ちょっとした非日常」というキーワードが浮かんできました。
この「ちょっとした非日常」というキーワードを「ターゲットが反応するキーワード」とすることにしました。

今回のチラシで伝えること

これまでの作業で、2つのアピールポイントに加えて1つの「ターゲットが反応するキーワード」が決まりました。

  • ちょっとした非日常(ターゲットが反応するキーワード)
  • 旅行会社運営のしっかりしたツアー(アピールポイント)
  • 一部会社負担で実現した低価格(アピールポイント)

この3つを「0.5秒」で伝えます。少なくとも「ターゲットが反応するキーワード」の「ちょっとした非日常」を0.5秒で伝えることは絶対に必要です。チラシが視野に入った時にとにかく「自分ごと」だと思ってもらえなければそれまでです。与えられた時間は0.5秒だけです。
そんなことは可能でしょうか?
…十分可能です。
2つの方法があります。

  • 6文字までの文字
  • 「色・形・大きさ」のセオリー

今回は「色・形・大きさ」のセオリーを使って0.5秒で伝えることを目指しました。

『ちょっとした非日常』を0.5秒で伝える

『ちょっとした非日常』という言葉をそのまま「色・形・大きさのセオリー」に置き換えることは難しいので別の言葉に言い換えます。「お祭り」と言い換えました。色のセオリーには鮮やかな色を複数使って賑やかさを演出する「お祭り配色」という方法があります。これが使えそうです。
「形のセオリー」でも考えてみます。
「非日常」は「不安定」なもの、と言い換えられます。
『逆三角形』という形で「不安定」を表現できます。
この2つのセオリーを使うことにしました。

『旅行会社運営のしっかりしたツアー』を0.5秒で伝える

『旅行会社運営のしっかりしたツアー』という文章を0.5秒で伝えるにはどうすればいいかを考えました。
これは、街でよく見かける旅行会社のチラシのイメージを出せば伝わると思いました。

旅行会社のチラシはレイアウトに特長があります。ラックに入れて並べられた時には下の部分が重なって見えなくなるので、上の1/3ほどの部分にタイトルが大きく入っています。
この特長的なレイアウトを採用して「旅行会社の安心感」が伝わるようにしました。

『一部会社負担で実現した低価格』を0.5秒で伝える

「一部会社負担で実現した低価格」は「低価格」のアピールです。
価格を大きく表示すれば「低価格」の雰囲気は伝わりますが、そのままでは単なる安売りのイメージになってしまいます。『いいものをこんな価格で』という印象にするため上品な装飾で柔らかい印象にしてみます。

完成したチラシ

今回のチラシで「0.5秒で伝えたいこと」と、そのための方法のおさらいです。

  • 伝えたいキーワード 伝えるための方法
  • ちょっとした非日常 「お祭り配色」、逆三角形のイメージ
  • 旅行会社運営のしっかりしたツアー 旅行会社のチラシの特徴を反映
  • 一部会社負担で実現した低価格 価格を大きく表示、印象を和らげる装飾

デザインを進めて、チラシが完成しました。




チラシ配布の結果

完成したチラシを、前回と同じ枚数配布しました。
結果は45人の定員に対して、116人の応募となりました。前回が39人だったので3倍の応募となりました。
前回はチラシ配布だけではなく、地道な営業活動で獲得した人数も含まれています。
チラシだけの効果で比較すると3倍以上の結果が出たことになります。
参加者獲得のための地道な営業活動が全く必要なくなったということも、営業担当者の負担を大きく減らす効果があったようです。
ただ定員45人に対して2.5倍の応募があったため、たくさんの落選者を出してしまうことになってしまいました。そこで急遽別日程の第2便を実行されたとのことです。

応募者数116人
応募者増加率2.97倍
その他の効果チラシ配布で完結、営業が不要に

最後に

今回は「商品自体はいいのに、その良さが伝えられていない」という仮説を立てて、対策をとりました。
その結果、想像を超える反響があったということは、やはり「伝え方」に問題があった、と考えられる思います。
もし売れ行きが思わしくない商品があれば、商品自体の改良に着手する前に「本当に良さが伝わっているか?」を分析して見てください。
この記事では、集客が3倍になったチラシを、どのように考えながら作っていったかをご紹介しました。
デザインを「感性・センス」だけで捉えてしまうと、制作を進める時などでも基準がブレてしまって、「ひとことで言うと何?」が見えなくなっていくことがあります。
「好き・嫌い」を判断基準にした場合には、伝えたいアピールポイントとの矛盾が起こりやすくなります。
あらかじめ「これを表現する」ということを決める論理的デザインの手法はブレることがなくなり、力強く「刺さる」アピールが実現できます。
ぜひデザインに「論理的デザイン」を取り入れてみてください。
今回は1回で大きな改善となりましたが、すぐには効果が出ない場合もあります。その場合でも論理的にデザインを考えると、効果がないアピールポイントをひとつ知ることができたことになり、次回につながります。
今回の記事で、何か参考になる部分があれば幸いです。

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